UTAUのカテゴリ問題を改めて考える

 UTAUオリジナル曲をVOCALOIDカテゴリとして投稿していこうという試みが行われるようだ。
  UTAUを「VOCALOID」カテで | デスおはぎのブログ
 詳しくは上記デスおはぎ氏のブログで、そしてボカロクリティークVol.01に寄稿された彼の論考にて述べられているので、興味のある方はどちらもご一読をおすすめする。
 この活動の背景には「ニコニコ動画におけるUTAUのカテゴリ問題」というものがある。UTAU楽曲はずっとカテゴリ迷子状態なのだ。この問題の議論が活発だったのは大体1年以上前の話で、最近は落ち着いてるように(?)見える*1が、決して解決したわけではない。そんな中、歌声合成文化も成熟しつつある現在、彼らの活動に対してどのような反応が生じるのか。非常に興味深い。

 このUTAUカテゴリ問題は、VOCALOIDという用語を考える上で重要なエッセンスを含んでいる。 「VOCALOID」という用語は最近「歌声合成文化」の通称として使われる傾向があるが、そろそろこのあたりの用法について整理したほうが良いのではなかろうか。とはいえ実際のところは、流石にVOCALOIDという用語自体を拡張的に用いるのは抵抗があるためか、やや言い換えた表現が主流ではある。例えば、デスおはぎ氏も指摘しているが、ニコニコ動画VOCALOIDカテゴリ専用ページでは「ボカロ音楽」という表現がとられた上で非VOCALOID楽曲も紹介されている。先日発売したボカロクリティークでは「ボカロ」「ボカロ文化」という表現を意識的に行っている印象があり、私もそれに倣った。

 新たな用語を考えようという動きもあるが広まらない。その原因としては

  • VOCALOID(文化)が指す対象が音楽文化だけではないから
  • VOCALOIDという用語があまりにウマすぎる表現だから
  • 広く浸透しすぎており今更VOCALOIDの方を汎化表現で言い換えるのも微妙だから

などが挙げられるだろうか。

 1つ目の理由はVOCALOIDという用語の多義性と関わる。詳しくは別の機会に確認したい。
 2つ目。この用語を考え出したYAMAHAに感心するしかない。この話題はid:ja_bra_af_cu氏とも少しリプライを飛ばしあったのだが、一応うまく当てはまる言葉はあるものの、VOCALOIDという語の絶妙さを超えるものは本当に思いつかない。無論、この呼称を元にして発展した文化だからというのもある。
 3つ目については、ニコニコ動画においては(所属)カテゴリタグはタグの一種だからということとも関わる。例えば、VOCALOIDと非VOCALOIDの文化を総称するカテゴリとして「歌声合成」というカテゴリタグが認められたとしよう。そうすると既存のVOCALOIDの動画全てに歌声合成タグをつけた上でロックする必要が出てくる。作業的にはプログラム的に解決出来なくもないが、それはフォークソノミーによるタグ付けというものの意義が失われてしまうのでやるべきではないと思う。
 このような状況を踏まえると、今更新たな表現を作為的に考えるより、VOCALOIDというカテゴリを拡張的に用いることを認めるほうが、まだ手っ取り早いし、自然に思える。

 しかしやはりVOCALOIDという語の用法を拡張してしまうには抵抗がある。それは主に混同に対する違和である。例えば、「重音テトさんはVOCALOIDでしょ?」といえば、違う*2。UTAU技術とVOCALOID技術の混同も強烈な違和感をもたらす。
 これは、WikipediaWikiと呼称されたり、USBメモリをUSBと呼称されることへの違和感と似ている。逆に言えば、WikiやUSBの用法が世間的に認められるのであればVOCALOIDにも同じ論法を適用可能であるとすることも出来る(暴論か)。

 ニコニコ動画の伝統的事情からVOCALOIDカテゴリが非VOCALOID由来の文化も含むことは認めたい。しかしそれはあくまで通称としてであり、厳密には区別すべきである*3。別の文脈でこれらの文化の総称を呼称する場合は、「ボカロ文化」とか「歌声合成文化」のような用語をあてるのが妥当。
 というあたりが現時点の私の落としどころだろうか。

 ちょっと書いているうちに思考が発散してきたので筆を置く*4。発散してる途中のものをブログ記事にするのも問題だが、無難になるようまとめてたらキリがないので投稿する。


*1:そう見えるだけで未だ議論は続いてるだろう。だからこそ今回のこの試みがある

*2:ちなみに重音テトさんはUTAU(or UTAUキャラ)という表現もこのような文脈では間違いである。このあたりの議論は別のエントリに回したいと思うが、敢えて言うならばテトさんは「VIPPALOID」とするのが妥当だと思っている。テトさんはこの界隈で一番ややこしい部類なので例としては適当ではないのだが、非VOCALOIDキャラでは一番有名なので仕方ない。

*3:区別することを強制する意図はない。必要がなければ(それで通じる状況であれば)区別しなくてもいいと思う。

*4:実際には筆などとっていないが、この表現のキーボード版は無いだろうか?